英語のやり取りで一番覚えてるのは、10年以上前、バリ島のホテルのフロントで言われた一言です。
「We have no reservation.」
予約確認のメール、来てたんですよ。それを見せながら空港から直行したのに、無いと言われる。あのときの、手元のメールが一瞬で紙切れになる感じ。幸い部屋が空いてて、その場でチェックインし直せたから旅行は無事やったんですけど。
今思えばあれ、たぶん予約サイトとホテル側の連携の問題で、私の英語のせいですらなかったと思うんです。でも当時の私にそれを確かめる術はなくて、フロントで固まるしかなかった。「海外とのやり取りは、できたつもりでも当てにならんことがある。ほんで自分には確かめようがない」——それが体に刻まれたのが、あの夜です。
で、時は流れて今。あの夜は「受け取る側」の話でしたけど、英語で何か「送る」場面でも、確かめる術がないのは同じなんですよね。送った英文がどう聞こえとるか、私には分からない。せやから今は、送る前にAIとひと往復挟むようになりました。たとえば海外のお店への問い合わせを送る前に、翻訳アプリが出した英文をAIに見せてみる。

この英文、そのまま送って大丈夫?

意味は通じます。ただ、やや事務的で強い印象になるかもしれません。相手に非があると断定するニュアンスが含まれています。
……え、そうなん。
日本語で「荷物が届いていません。確認してください」のつもりが、英文になると「あなたたちのせいで届いてない。今すぐ確認しろ」寄りの温度になってたらしいんです。私、クレーマーになるとこやった。
それから、送る前の往復が習慣になった
いまの手順はこうです。まず言いたいことを日本語でAIに渡して、英文の叩き台を作ってもらう。ここまでは翻訳アプリと一緒。
違うのはそのあとで、できた英文を日本語で説明し直してもらうんです。

この英文、日本語やとどういう温度で聞こえるか教えて。

「お忙しいところすみません、注文した商品がまだ届いていないようです。状況を確認していただけますか」——丁寧で、相手を責めない依頼のトーンです。
で、温度が気に入らんかったら直してもらう。「もうちょっと柔らかく」とか「催促の気持ちは残して」とか。納得してから送る。
翻訳を頼んでるというより、トーンの通訳を頼んでる感じです。
逆翻訳と、ちょっとだけ違う
「英文をもう一回日本語に訳し直させて、意味がズレてないか確かめる」——いわゆる逆翻訳は、私も知ってました。やってることは似てます。
違うのは、聞いてるものです。逆翻訳が確かめるのは「意味が合ってるか」。私が聞いてるのは「どういう温度に聞こえるか」。意味が完璧に合ってても、温度がキツい英文はあるんです。さっきの「今すぐ確認しろ」も、意味だけ逆翻訳したら「確認を求めています」で通ってしまう。
英語そのものは、私には判断できません。読めないから翻訳してもらってるわけで。でも「丁寧」「事務的」「責めてる感じ」——温度の説明なら日本語で来るから、私にも判断できる。英語は分からんけど、温度なら分かる。
一個だけ白状しとくと、AIの言う「温度」が本当に合ってるかは、私には確かめようがありません。英語が読めたら往復してないので。そこはもう、信じるしかない部分です。ただ、何も聞かずに送ってた頃より、確かめられる部分が一個増えたのは間違いなくて。
私の線引き
これも全部の英文でやってるわけやないです。定型で済むもの(届いた確認とか、ありがとうだけ返すとか)はそのまま送ります。
往復を挟むのは、こじれたら困る相手に、こじれそうな内容を送るとき。問い合わせ・お願い・お断り・クレーム系。つまり日本語でも書くのに気を使うやつです。日本語で気を使う文章は、英語でも気を使う文章で、そこだけは機械の一発変換に任せんようになりました。
あのバリの夜、フロントで固まってた私は、確認のしようが無かったんですよね。メールを信じるしか無かった。今は送る前に「これ、どう聞こえる?」って聞ける相手がおる。英語力は当時から変わってないのに、やり取りだけちょっと大人になってます。
※バリのホテルの話は実話です。AIとのやり取りの例と、その場面(荷物の問い合わせなど)は、実際の使い方をもとにした再構成です。
